図工の授業で日常的に使われる絵の具セットであるが、どれが正しい指導法であるのか、教師を迷わすような情報が周りにあふれている。たとえば「全ての色をパレットに出し、小部屋の絵の具は洗わない」「パレットは毎回きれいに洗う」「絵の具は3原色の混色で色を作って描いた方が良い」「12色セットより18色や24色セットの絵の具を持たせた方が良い」相反する情報が提供され混乱されている方も多いのではないだろうか。ここでは、なぜそのような相反することが言われるのかを考えながら、水彩絵の具の指導の仕方を考えていきたい。

水彩絵の具の指導方法-パレットの小部屋を考える

【そもそもパレットの小部屋は何のため?】
パレット
「絵の具はまず小部屋に出し、使う時には、そこから広い部屋に出して水加減を調節して使う」と教えられてきた。自分自身が子どもの頃からそうであったし、教師になってからもそう教えてきた。しかし、この方法では、「小部屋に出す」→「広い部屋に移動させる」という2つのアクションが必要で、これだけのために筆が絵の具で汚れてしまう。1色だけ使うのであれば、筆に絵の具が付いても問題ないが、3色絵の具を広い部屋に出そうと思うと、少なくとも2回は筆を洗う必要がある。まだ、何も色を塗っていない段階で、筆洗バケツの水は汚れるは、絵の具が洗い流されて無駄になるは、時間はかかるは、で、ろくなことはない。広い部屋に絵の具をだせば、1アクションで済む上に、何色出そうが、筆も水も汚れることはない。
 
それでも、小部屋に絵の具を出すのは、どういう意味があるのだろうか。何度もチューブから絞り出さずに、小部屋にあれば、すぐその色が使えるからだろうか。確かにチューブから出す手間は、省けるかもしれないが、それと引き換えに2つのデメリットが生じる。ひとつは、小部屋に絵の具が使いきられずに残ってしまうことだ。これを回避するためには、小部屋に出した絵の具を残らず全て広い部屋に移して使い切ればいいが、それなら、小部屋は一瞬絵の具が置かれるだけの場所になってしまう。
もうひとつのデメリットというのは、小部屋の絵の具が汚れやすいということである。もちろん、小部屋の絵の具を取る時には、筆を洗うように指導するが、なかなか難しい。広い部屋で混色して、いろいろな色が混ざり合っていればなおさらである。

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【小部屋の絵の具は洗う?洗わない?】
ところで、教師が何人か集まると、小部屋の絵の具を「洗う派」と「洗わない派」に分かれるのをご存じだろうか。それぞれが、自分のしていることが正しいと信じているので、相手を説得して宗旨替えさせるのは、至難の業である。ならば、自分が折れて、相手の方法を真似ても、大概上手くはいかない。なぜなら、残った絵の具がもったいないからといった理由で「洗わない派」がそうする訳でもなければ、「洗う派」が好き好んで残った絵の具を洗い流している訳でもないからである。

【洗わない派は、絵の具は固まらせるために洗わない】
透明水彩技法
小部屋の絵の具を洗わないとどうなるか。もちろん、固まる。そう、洗わない派は洗わないから絵の具が固まるのではなく、絵の具を固めるために洗わないのだ。絵の具を固めてどうするかというと、固まった絵の具を少しずつ溶かしながら、塗るのである。これは、透明水彩の技法で、少量の絵の具で下の色が透けて見えるような塗り方である。広い部屋で混色することもあるが、原則、紙の上の絵の具の重なりで混色の効果を出す。固まった絵の具を使うことにより、絵の具の量を常に少量にキープ、少ない絵の具を何度も重ねていくことで、淡くそれでいて深みのある表現が可能である。もともと、筆に付く絵の具の量が少なく、パレットでの混色も少ないので、小部屋の絵の具が汚れにくく、たとえ、うっかり汚れた筆で小部屋に入っても固まっているので、色が混じりにくい。そう、透明水彩技法的に行えば、パレットが汚れないので洗う必要もなくなる訳だ。

【洗う派には、小部屋は不要】
ここまで読んでいただいた方はもうおわかりかと思うが、小部屋は透明水彩技法のための絵の具を固まらせる場所である。絵の具を固まらせない使い方では、小部屋は必要ない。児童の使っている絵の具は透明水彩的にも不透明水彩的にも使えるので、このあたりが混乱したまま教えられてきたように思う。絵の具を柔らかいまま使い、パレットの広い部屋で混色させようと思ったら、「まず小部屋に絵の具を出す」という常識に決別した方が幸せになれるように思う。これで、もったいないと思いながら、小部屋に残った絵の具を洗い流す良心の呵責からも解放される。そう、「洗う派」は、小部屋ではなく、広い部屋に絵の具を直接だそう!

【しかし実際には】
しかし実際には、広い部屋に直接絵の具を出すのは、合理的だが一般的ではない。教科書でも、小部屋を使うようになっている。(教科書は、透明水彩技法を推奨しているわけではない。)ひとりで、卒業まで担当する専科教員なら混乱は少ないが、毎年変わる担任がそれぞれ別の方法で教えると子どもも混乱するだろう。「小部屋を洗う」「洗わない」は、描かせる絵によって変えることもできる。透明水彩技法的に描かせる場合は洗わず、普段は洗ってしまう。という具合だ。しかし、小部屋を「使う」「使わない」は、「必ず絵の具は小部屋に出す」と指導されている方が多い中、子ども達に混乱させずに伝えるのは難しい。結局のところ、上記のような問題があるものの、教科書に従って指導するのが無難といえば無難である。

ところで、教科書が小部屋に全色を出して絵の具を使うように書いているのは、色数の多い絵を描かせる意図がある。確かに途中でチューブから絵の具を出していると、塗る作業が中断してしまうし、絵の具を出すのが面倒になって、色数が少なくなることが多い。小部屋に色を準備して塗り始めるというのは、利点もあるのだ。


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