AIの進歩は凄まじく、いろいろな分野で活用され、私たちの生活に変化をもたらしています。アートの分野も例外ではありません。今ではAIが画家の画風をまねて、その画家が創作したかのような新作を描くこともできますし、抽象画を描くこともできます。
このような時代に図工美術では、子ども達に何をどのように教えればいいのでしょうか。このページでは、AIの進化と図工、美術教育を「生きる力」という視点で考えてみたいと思います。
アート分野へ進出するAI
まずはこちらの絵をご覧ください。
これはAIが私の持っていた花の写真とピカソの絵を元に作り出した絵です。「Ostagram」というサイトで公開されている機能です。このサイトを開くとAIを使って作成した画像が次々に表示されます。2枚の画像を合成すると何十枚かに1枚は面白いものができるかもしれませんが、普通は絵として人に見てもらえる水準のものはできません。しかし、このサイトを見て頂ければわかるように、どれもそれなりの水準を保っています。つまり適当に画像を合わせているのではなく、効果的な合成を学習して画像を作っているということです。
このサイトでは、ユーザー登録を行えば、自分の好きな画像を合成することができます。ただし、無料で作成すると処理スピードが遅く、本当に処理を行っているか心配になります。忘れてしまった頃ににもう一度サイトを覗いてみるぐらいの気持ちで試してみるといいでしょう。
他にも、AIが描く抽象画を次々を表示するサイト「art42」やAIの作り出す人物写真「This Person Does Not Exist(この人は存在しない)」などを見て頂くと、その進化が良くわかるのではないでしょうか。
AIがしてくれるなら技能は不要か?
AIが進化する未来を思い描くと、何もかもAIがやってのけて、人間のすることでAIにできないことはない未来がくるかもしれません。AIがロボットアームを操作して絵筆で絵を描くかもしれないし、簡単な アイデア をインプットするだけで立体造形を作り上げるかもしれません。そもそも、そのアイデアすらAIが考えるかもしれません。
それなら図工や美術で行ってきた絵の具、カッターナイフ、彫刻刀、電動糸のこぎりなどを扱う技能は教えなくていいのでしょうか。そんなことはありません。 電卓ができたからといって九九や筆算が無くなった訳ではないように、ある程度の変化はあるでしょうが、技能を身に付ける学習は必要でしょう。それは、手先を使うことで器用性を高めたり、脳を発達させたりとその子自身の成長に必要な事です。子ども時代に小刀で鉛筆を削っていた世代の方が、鉛筆削りができたことで小刀を使わなくなったとしても、その時身に付けた手指の巧緻性はその後に役に立ってきたはずです。個人の成長に不可欠なこととAIの進化は分けて考えないといけません。
上手な技能ではなく創造的な技能
技能を身に付けさせようと、ついつい描き方を教えることはないでしょうか。「水は多めにして、横に筆を動かして、画面の上と下では色に変化をつけて空を描いてみましょう。」というような具合にです。確かに空の描き方として間違ってはいません。そして、このようにすると、クラス全員がある程度の絵が描けます。絵に一定の技術レベルを求めるならこうした方法はとても効率的です。
しかし、描き方を教えれば教えるほど、子どもが考える余地は減ります。これは、上手に描くという能力を重視して、考える能力をおろそかにすることつながります。
図工美術教育で育てる資質能力は何でも良いという訳ではなく、子ども達の生きる力に結び付いているものでなくてはなりません。つまり、子ども達がこれから将来生きていくAIがさらに進化する世の中でも「生きる」ものということです。それは、「先生の言う通り描く力(上手な技能)」ではなく、「自分で考えて描く力(創造的な技能)」だと思います。
題材や授業、教師の支援などすべてにおいて、それが子ども達の生きる力につながるかを考えることで、何が必要で何が必要でないかを見極めることができると思います。創造的な技能はそのひとつですし、創造性や感性なども大切でしょう。こうして、AIがより進化する時代を見据えながら、今の図工美術教育を考え、日々の実践へとつなげていきたいものです。
子どもの生きる力につながる図工美術教育を考えていこう
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