絵の具の筆、画筆といってもいろいろな種類があります。画材コーナーに行くと、「丸筆」「平筆」「面相筆」「彩色筆」などの筆が置かれています。それだけなら何とかなりそうですが、「馬毛」「豚毛」「ナイロン」などの毛の種類の違いがある上に、「大」「中」「小」などの太さも考えなければなりません。太さに関しては、0号とか2号とかよくわからない数字まであります。いったいどのように筆を選べばいいのか迷っておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、このページでは、小学校の図工でどのような筆を使えばいいのかを解説していきたいと思います。あくまで、子どもが使いやすい用具のおすすめです。ですので、専門的に絵を描いておられる方には参考にならないと思いますのであらかじめお断りしておきます。
*注)特定メーカーの筆を推薦していますが、私はこのメーカーとは何の関係もありません。
私のお勧めは「ペンテルネオセーブル」
私のおすすめはズバリ、ペンテルネオセーブルです。個人絵の具を使い始める3年生の時に、丸筆の特大18号、丸筆大14号を購入しておけば卒業するまで使えます。特に丸筆大14号は万能で、細い線から面の塗りまでこれ一本あれば他はなくても何とかなります。細かな絵を好む子には丸筆小6号を加えてもいいでしょう。ペンテルネオセーブル、特大、大、小の3本あれば鬼に金棒です。
ところで、絵の具セットを3年で購入せずに1年生で購入する学校もあります。この場合は少し話が変わってきます。1.2年生では、大胆に色を塗ることを楽しむ活動が多くなると思います。こうした活動が中心の低学年には、「サクラネオセブロン丸筆の特大18号と大14号」の2本セットをお勧めします。絵の具セットには、「アーテックのアクワナイロン丸筆の特大20号と大15号」をセットにしたものもあるようですが、こちらは使用したことがないのでコメントは控えます。
私が勤めていた学校では、1年生でサクラネオセブロンの特大と大を含む絵の具セットを購入していました。そこで、中学年になった段階でペンテルの丸筆を紹介して、希望者に購入を勧めていました。大きな面の塗りは1年生で購入した太筆がそのまま使えるので、購入を勧めたのはネオセーブル14号1本です。(欲しい子には小6号も紹介しました。)
ネオセーブルの何がいいのか
良い点-その1 コシが強い
ネオセーブルの良さを解説する前に、筆の毛の種類と特徴について少し触れておきたいと思います。
写真のような筆、一度はご覧になったことがあるのではないでしょうか。これが馬などの動物の毛を使った筆です。この筆の特徴は筆先が柔らかいことです。水彩画用として販売されていることもあるこの筆は、絵の具に対して水を多めにした淡い色彩で塗る透明水彩画の用途に適しています。
この筆先の柔らかさは輪郭を描いたり、ポスターのようなマットな塗り方をするには向きません。図工で使う絵の具は水彩絵の具ですが、透明水彩のように使うこともできれば不透明水彩のような使い方も可能です。図工ではいろいろな塗り方をしますので、透明水彩に特化したような性質はかえって使いにくいのです。そのため、動物の毛を使った画筆は選ばない方がいいでしょう。
その点、サクラネオセブロンやアクワナイロン筆、ペンテルネオセーブルといった学用品向きの画筆は筆先がナイロンでできています。強度を人工的に調節できるナイロン筆は、コシの強い筆を作ることができます。コシの強い筆は塗り終わって紙から筆を離した時、自然と筆先がまとまろうとするので、小学生でもとても扱いやすい筆だと言えるでしょう。
良さ-その2 傷みにくい
ナイロン筆の特徴は傷みにくいことです。筆の保管や扱い方にそれ程気を付けていなくても、悪くなることはありません。(もちろんあまりに乱暴な扱い方をするとダメですが)これは動物の毛よりナイロンが強くて丈夫だからです。この強さから水彩絵の具より筆にストレスがかかるアクリル絵の具用の筆としても重宝されます。水彩絵の具なら洗い方が不十分で絵の具が残っていたとしても、そのせいで毛が劣化することはありません。
ところで、筆入れにちきんと仕舞わずに、筆先に変なクセを付けてしまう子がいます。このようにして曲がってしまった筆先は、60℃~80℃程度のお湯に数分浸してみましょう。うまくすると元に戻ることがあります。また、長く使って筆先のまとまりが悪くなってきたときも試して欲しい方法です。
これはナイロンが熱を加えることで最初の形状に戻る性質を利用したものです。ただ、ひどく曲がってしまった場合などは戻らないこともありますので、筆先にはキャップを付けて、筆入れにきちんと収めておくのが基本です。
良さ-その3 細部まで良く作られている
ここまでは、ネオセーブルの良さというより、ナイロン筆の良さを挙げてきました。3つ目で数あるナイロン筆の中でもネオセーブルを押す理由を説明します。
まずは水含みの良さです。人口の毛ではありますが、非常によくできていると思います。ペンテルによれば、いろいろな種類のナイロン毛をブレンドして、このコシがあって水含みの良い筆先を実現しているようです。絵の具の学習では、絵の具と水の量を程よく調整することが、うまく塗るための大切な要素です。私は筆洗で洗った後は、軽く筆を雑巾で押さえるようにして表面の水を取り除くよう指導しています。このようにしても、ネオセーブルは内部に十分な水を含んでいますので、パレット上で絵の具を柔らかくすることができます。
ネオセーブルの良いところは、持ち手部分にもあります。軸の後端が四角くなっていて転がりにくくなっていたり、指の当たるところに滑り止め加工がされていたりと細かい部分に工夫がされています。そんな中でも、私が軸部分で特にいいと思うのは、その細さです。低学年でサクラネオセブロン丸筆の大14号を購入していても、中学年であまり太さの違わないネオセーブルの14号を勧める理由は、まとまりの良さや水含みの良さに加えて、この軸の細さにあります。ネオセーブルの軸は指先で支える部分が太いですが、その他は鉛筆ぐらいの細さです。この細い軸のおかげで、細かい描画や彩色がとても行いやすいのです。また、重さのバランスも絶妙で、長く持っていて疲れることがありません。
このように非常に細かい部分までとても良くできた筆だと思います。以上が、私がネオセーブルをお勧めする理由です。
ネオセーブルの欠点
ここまでべた褒めしてきたネオセーブルにも良くない点はあります。ひとつは価格が高いこと。特に丸筆の18号は急に価格が跳ね上がる印象があります。子どもから大人まで広く使えるいい筆で、その品質を考えると仕方ないのかもしれませんが、学用品として考えると決して簡単に買ってもらえる価格ではないように思います。(サクラネオセブロンも同じような価格設定になっていますので仕方がないことなのかもしれません。)
もうひとつの良くない点は、ネオセーブルに限った話ではないのですが、筆先を保護するキャップを無くしやすいことです。お湯に浸ければ形状が戻るとはいえ、筆先をひどくつぶしてしまうと筆をダメにします。うまく使えば卒業まで大丈夫でも、扱いが悪いと買ってすぐに使えなくなることもあり得ます。そこで、保護キャップは必須なのですが、これが円柱状なのでコロコロと転がり無くなりやすいのです。
キャップに関しては欠点がもうひとつあります。それは毛を挟み込んでしまうことです。キャップをするためには筆先を揃えておかなければなりません。それが不十分だとはみ出た毛を挟み込んで、折り曲げてしまいます。手先があまり器用でない子ども達にとっては、キャップをはめることはちょっとした難関です。
私は、軸側からスライドしてキャップができるような筆があればいいのにと思っています。先端や後端にキャップが来たときは、ひねってカチッと固定できれば完璧です。メーカーさん作ってくれないでしょうか。
筆の呼び名と号数
最後に、このページの最初に出てきた「丸筆」「平筆」「面相筆」「彩色筆」という名称と号数について少し解説しておきたいと思います。「丸筆」「平筆」はその名の通り形状です。持っていて不都合はないですが、平筆でないと困る場面は特にないでしょう。
「面相筆」「彩色筆」は用途からきている名称です。「面相」は眉毛など顔の中を描く筆で、とても細いのが特徴です。「彩色」は色を塗るための筆で柔らかい筆先が特徴ですが、色を塗るといっても細い筆なので広いところを一気にという訳にはいきません。どちらも図工ではあまり使いません。
さて、号数ですが、数字が大きくなるほど太く大きな筆になります。ネオセーブルでは、「18号、14号、6号」をそれぞれ「特大、大、小」としています。ところで、「特大、大、小」という大きさもあいまいな感じですが、かといって18号とかいう数字も完璧なものではありません。洋服のS、M、Lという大きさがメーカーによってまちまちなように、号数もかなりばらつきがあります。メーカーが変われば多少違いがあることを念頭において、大体の目安程度に考えておきましょう。
ここまで、私のおすすめする画筆とその理由についてお話してきました。このおすすめは、あくまで私個人の考えです。指導方法や取り組む題材によっても適した用具は変わってきますので、あくまで参考程度に考えてもらえればと思います。
それでは、まとめです。
図工に適した画筆
・水含みが良くコシがあること
・扱いが簡単なナイロン筆
・低学年と中学年以上では適した画筆が違う
コメント