「先生、失敗した!」と言ってくる子に対して、新しい紙を渡しますか?この問いに対して、「はい、新しい紙を渡してやり直させます。」とお答えになる方は、どのぐらいいらっしゃるでしょうか。むしろ新しい紙を渡さない方の方が多いかもしれません。このページでは、この「初めからやり直す」ことについて考えてみたいと思います。
私はやり直し賛成派
結論から言いますと、私は「初めからやり直す」ことを肯定しています。ですので、「失敗したので、新しい紙を下さい。」と言っている子には、原則、新しい紙を渡します。工作などで人数分の材料しかない場合は仕方ないにしても、可能なら工作などでも新しい材料を渡します。
私がこんな風に考えていることに対して、「失敗したからといってすぐ新しものを与えては物を大切にしなくなる」とか「失敗したと諦めず、最後までやり遂げる力がつかない」とか、「ある子に追加の材料が渡ることで費用の不平等が生まれる」などの反対のご意見があると思います。
実は、私も「初めからやり直す」ことには反対派でした。それがなぜ賛成しているのか。その辺りも含めて「初めからやり直す」ことがどのような意味を持つのかについて解説していきたいと思います。
やり直しのデメリット
子どもが失敗を訴えて、新しい紙や材料を求めたとき、難色を示される方は意外に多いようです。そこで、まずはやり直すことのデメリットを挙げてみたいと思います。
【デメリット1】認めるとすぐ新しい材料を欲しがる
子どもは、思ったように描けない、形が変になった、などちょっとしたことで失敗したと感じます。もしくは、まだどうとでも修正の効くような段階の失敗もあります。子どもが失敗したといってきてすぐ新しい材料を渡していると、失敗でもないようなことで新しい材料を求めてくることは十分ありそうです。
【デメリット2】それまでの時間が無駄になる
4時間の制作時間だとして、2時間終わったところで初めからやり直すと、それまでの2時間が無駄になるという考え方です。他の子が4時間かけた作品とやり直したために2時間しかかけられなかった作品とでは、質に違いが出てしまうのは確かでしょう。
【デメリット3】不公平が生まれる
これはもっともで反論のしようがありません。材料を新たに使ったということは、他の子より多くのお金がかかった、つまり他の子より利益を得たとも考えられます。
やり直しのメリット
ここまで、やり直しのデメリットを考えましたが、ではメリットはどんなものがあるでしょうか。
【メリット1】意欲が続く
失敗してそれが取り戻せないとわかっているのに続けることはつらいことです。4時間の授業の前半で失敗した子にとっては、後半の時間は苦行でしかないでしょう。やり直すことができないなら失敗を極端に恐れるかもしれません。うまくいかなかったら、やり直せばいい。そんな風に考えていると失敗も怖くはありません。
【メリット2】失敗を活かせる
失敗することは何も悪いことではありません。「そうしたらダメだといったでしょう。先生の注意をちゃんと聞いていないから失敗するんでしょう!」と小言のひとつも言いたくなるような失敗に関しても、「やっぱり先生のいうことはちゃんと聞いた方がいい」ということを身をもって教えてくれます。そう、失敗の中には少なからず学びがあります。失敗した子は、新しい材料で以前と同じ失敗を繰り返さないように気を付けて活動します。やり直して初めて失敗を活かせるのではないでしょうか。
【メリット3】活動時間は変わらない
やり直すとそれまでの時間が無駄になると考えますが、トータルの活動時間はやり直さなくてもやり直しても同じです。確かに、新しい材料にかけた時間が他の子の半分だったら、その子の作品の出来はあまり良くないのかもしれません。しかし、図工は作品作りが目的の教科ではありません。作品を作りを通して資質能力をどのように育成できたかが問われます。作品の出来は悪くとも、失敗という経験から学び、活動時間は他の子と変わらないのであれば、やり直すことも決して悪くはないと思うのです。
やり直しをどのようにとらえるか
デメリットとメリットを整理してみる
【デメリット1】について、子どもの言う失敗は失敗ではなかったりします。頭の中のイメージと実際の絵が異なることは当たり前ですし、失敗ではなくそれでいいのか自信がないだけかもしれません。先生がうまくできているよと認めてあげるだけで、失敗ではなくなってしまうことも多いでしょう。この段階ですぐに新しい材料を渡すのは私もどうかと思います。まずは、子どもの話を聞いて、修正ができそうならそうアドバイスすればいいし、失敗というほどでないと思うならそう伝えればいいと思います。
しかし、そうしてもなお失敗と子どもが感じているなら、やり直しても構わないと思います。子ども自身が失敗と判断すればそれを尊重してあげるべきだと考えます。
【デメリット2】については【メリット2】と【メリット3】があるので、必ずしも悪いことではないと考えます。
【デメリット3】の「不公平だから」については、確かにその通りです。そのため、材料費等については十分配慮する必要があると思います。ただ公平を突き詰めると、アイディアがたくさん浮かんで追加の材料を欲しい子にも材料を渡せなくなってしまいます。教育効果を考えながら柔軟に対応していくのがよいのではないでしょうか。
大人だったらどうか
ところで、先生方が自身で絵を描くとして、失敗したらどうされますか。私は、新しく描き直すことが多いでしょうか。この時、そのまま続けた時のことややり直した時のこと、それにかけられる時間や気力などいろいろなことを考えて判断します。
みなさんも同じではないでしょうか。絶対にやり直すという人、絶対にやり直さないという人は少数だと思います。その時々に応じて判断されると思います。
やり直すことにはデメリットもメリットも存在します。先生がやり直しをさせるかさせないかを判断するのではなく、子ども自身に判断させることがなにより大切なのではないかと思うのですがいかがでしょうか。
最後に途中でやり直した児童作品をご覧ください。
やり直した作品の例
2つの作品を見比べて頂くとわかりますが、2枚とも中心に集まる構図で連続した3角形がポイントになっています。最初は形の大小や色の組み合わせをあまり考えず思いつくまま貼っていった結果、ごちゃごちゃした印象になってしまいました。そこで、その反省を活かして、やり直した作品はかなり整然と並べています。形の大きさや連続性にも気を配ったようです。
ご覧になる方によっては、やり直す前の作品もなかなか面白いと思われるかもしれません。ただ、私が考えるのは、この子はやり直すことによっていい経験ができただろうなぁということです。この子はうまくいかなかったところをどうすればうまくできるかを考え、自分なりの改善策で新しく表現し直しました。これは作品の良し悪しとは別の価値があると思います。
まとめです。
子どもの失敗への対応
・やり直すことへの拒否反応を無くそう。
・やり直すかは子ども自身に考えさせよう。
・作品の出来だけなくやり直すことで得る経験に目を向けよう。
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