「図工は上手な絵を描かせるための教科ではないですよ」とか「見栄えに囚われてはいい図工の授業はできません」とかいう言葉を聞くことがあります。しかし、いつまでたっても、何を描いているかわからないような絵しか描けない状態でいいとは思えないし、見栄えに囚われないといってもある程度は見栄えも必要ではないかとも考えてしまいませんか。このように、技能については、どのように考えればいいか、迷われている先生方が多いのではないでしょうか。このページでは、そんな図工の技能について考えてみたいと思います。
このページの内容を動画で
このページの内容をさらに詳しく動画で解説しています。よろしければこちらもご参照ください。
指導要領ではどのように扱うことになっているのか
各学年の内容の、絵や立体、工作に表す活動で解説します。A表現のカッコ2で第1学年、第2学年では「身近な材料や用具に十分慣れる」、第3学年、第4学年では「材料や用具を適切に扱う」、第5学年、第6学年では「材料や用具を活用する」となっています。つまり図工では、材料用具を正しく使い、活用できるように指導することが求められています。同時に「ともに」という言葉ともに、「表したいことを基に、もしくは表したいことに合わせて表し方を工夫すること」も求められています。
ここで、「表したい」の主語は子どもです。子どもが表したいことに合わせて、工夫しながら技能を発揮する必要があるということです。このように指導要領では、材料用具を使えるようになるだけではなく、材料用具で表現を工夫できる子どもを育てる技能指導でなければならないとなっています。これが、技能はただの技能ではなく、創造的な技能であると言われる理由です。

創造的な技能とは
次に、図工の技能はただの技能ではなく創造的な技能であるというときの、創造的な技能について詳しくみていきましょう。創造的な技能というと、「創造的に材料用具を使うこと」と考えられている方もいらっしゃいます。ただ、この表現では誤解も起こりがちなので、「材料用具を使って、創造的に表す」ととらえる方がいいように私は思っています。
つまり、創造的という言葉は材料用具に係るのではなく、表し方に係るということです。カッターナイフを例に挙げてみましょう。カッターナイフを使う場合、カッターナイフの持ち方や動かし方、紙の押さえ方など安全を考えると扱い方はほぼ決まっています。ここに創造性の入り込む余地はほとんどありません。創造性は安全に紙を切ることができる技能を身に付けた上で、どのような形に紙を切るかに発揮されるものです。例えば、細かく紙の向きを変えていろいろな向きの線を切ったり、同じ形を切り抜いて形のつながりを表現したり、曲線で囲まれた形を切ってやわらかさを表したり、と自分の考えで切る形を工夫することで、創造的な技能を発揮することができるといえます。
図工の技能は2階建てで考えると分かりやすいでしょう。基本的な技能と創造的な技能です。先ほど指導要領のところで出てきた、「とともに」の前後が、基本的な技能と創造的な技能になります。建物の1階を作らずに2階を作ることができないように、創造的な技能の前提として基本的な技能が必要です。カッターナイフの扱い方を知らずに、工夫した形を切ることはできません。同様に、筆や筆洗、パレットの使い方の指導をないがしろにして、絵の具を使って創造的に表すことはできません。

どのように技能を指導するか
では、実際に授業でどのように技能を指導していけばいいのかを考えていきたいと思います。まず、その題材の技能指導を考える際に、その題材で必要な基本的な技能が次の3つのどのパターンに当てはまるか考えてみます。
1 丁寧に指導して身に付けるもの
2 使いながら身に付けるもの
3 既習の技能を活用や応用するもの
ひとつめの少しずつ丁寧に指導するものは、初めて扱う材料用具や、扱い方を誤るとケガの危険があったりする材料用具です。代表的なものは、刃物類でカッターナイフやのこぎり、彫刻刀などが当てはまります。これらは、安全指導や基本的な技能にある程度の時間を使って丁寧に指導します。その後、表したいことに合わせて子どもが創造的な技能を発揮できる活動に入ることになると思います。
ふたつめの使いながら技能を身に付けるものは、ある程度の指導を行ったあとは、思うままに描いたり、切ったりしながら活動する題材です。筆でいろいろな太さや濃さ、形の線を自由に描いていく題材や、ハサミで画用紙を好きな形に切って作品にしていく題材などがこれに当たります。習うより慣れろという感じで、実際に使っていくなかで、基本的な技能を身に付けることができます。そして、自分の思うまま、表したいように材料用具を使っていくので、同時に創造的な技能も育てることができます。いわば一石二鳥的な題材です。
ところで、1と2は完全に別物という訳ではなく、時間配分や指導の仕方で1の要素が強くなったり、2の要素が強くなったりするものもあります。同じ材料用具を使っても、その題材で必要な技能からどのような方法で指導するのが効果的かを考える必要があります。

3つ目の既習の技能の活用や応用ですが、これにあたる題材はかなり多くて、絵の具などは低学年から高学年まで6年間にわたって使いますので、学年が上がるにつれて既習事項が増えていきます。これは、おなじ材料用具を使うことで、技能の向上や定着が図れるということももちろんありますが、扱いなれた材料用具ですので、それを使って表現の工夫をしやすいという面が大きいでしょう。自身の成長によって、同じ材料用具を使って行う表現の工夫も高度なものになります。
こういった場合は、基本的な技能はすでに習得されているので、技能を組み合わせたり、発展させたりしやすい題材の構成や場の設定を主に考えるといいでしょう。
以上のように、授業で技能を考える際には、まず基本的な技能がどのようなパターンに当たるのかを考え、そこから創造的な技能を発揮できる方法を考えていくのが、わかりやすいのではないでしょうか。
それでは、まとめです。
学習指導要領では材料用具を「慣れる、適切に使う、活用する」とともに「表したいことを基に、もしくは表したいことに合わせて表し方を工夫すること」を求めています。そこで、基本的な技能を指導して創造的な技能を育てるという、2つをバランス良く行う必要があります。そのために実際の指導では、基本的な技能をパターン分けすると考えやすいのではないかと思われます。
コメント