図工で大切なことは何か

図工で大切なこと 記事

「私は計算が遅いので算数を教えるのは苦手です。」とか「文章を上手に書けないので国語を教えるのはちょっと」とかいう先生にお目にかかったことがありませんが、「絵が下手なので図工はどうやって教えていいかわかりません」という先生にはよく出会います。

もしかしたらこれ、図工の根本的な部分が間違ってとらえられているためかも知れません。図工で大切にすることは何かを考え、そこから図工という教科にどのように向き合うべきなのかを考えてみたいと思います。

スポンサーリンク

図工で一番大切なことを何だと考えるかで違ってくる

指導要領では学力を「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力」「学びに向かう力、人間性等」の3つの力に整理しています。図工にこの力をあてはめると「造形的な視点の理解と創造的な技能」「発想や構想の力と鑑賞の能力」「感性や情操、豊かな生活を創造する態度」となります。

教師は指導要領の目標にしたがって教育を行う訳ですので、図工という教科で大切にすることは、上記の3つの資質を育成することに他なりません。たしかに指導要領的にはそうなのですが、授業を行う上で、先生ひとりひとりが一番大切にしておられることをお聞きするともう少し一般的な図工のイメージに近づくような気がします。

「図工では創造性を育みたい」とか「豊かな情操を育てたい」などとお考えの方、いらっしゃいますよね。「表現力を伸ばしたい」と考えておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ところで、私は現在、図工で最も大切なことは「考えること」だと思っています。どうしてそのように思うのか、「図工の根本的な部分が間違ってとらえられている」ということにどうつながるのか、そのあたりをご説明したいと思います。

「表現力を伸ばしたい」という考えに潜む罠

図工は表現および鑑賞の活動を通して資質、能力を育成する教科です。ですので、表現力を大切にしたいという考え方は良く分かるし、とてもいいことだと思います。

ただ、「表現力」と一口にいっても、イメージするものは人それぞれですし、イメージの仕方によっては好ましくない指導に結び付く罠にもはまってしまいます。

「美しいもの、センスのいいものに興味を持たせて、表現力豊かな絵を描かせたり、工作を作らせたりしたい」と思うのは間違ってはいません。しかし、表現力豊かとはどういうことでしょうか。「色の微妙な違いを混色した色で表すこと」「物の形をよく観察して描けること」「調和の取れた色を使う事」、どれも表現力豊かな具体例としては間違っていないのですが、それを教えようとして間違ってしまう場合があるように思います。

大人が考える豊かな表現というものがあったとして、それを子どもに教えるのがいいとは限りません。例えば、「ひまわりの花を描く」という題材を考えてみましょう。ひまわりの花の黄色を表現するのに絵の具の黄色をそのまま塗る授業をされる方は少ないのではないでしょうか。黄色といっても、オレンジがかった黄色もあれば、茶色に近い黄色もある。そこで、オレンジや茶色を少し混ぜさせたりして、微妙な色の違いを表現させようとする。確かにこうすると色の豊かなひまわりが描けますので、黄色をそのまま使ったものより表現力豊かな絵になったといえるかもしれません。

しかし、これは大人が考える豊かな表現をなぞっただけです。色彩は豊かになったかもしれませんが、それはあくまで作品が豊かになったということです。では、子どもは自身は豊かになったのでしょうか創造的に考え色を選んだのでしょうか。そういうことです。作品がよくなっても、子どもが色の違いに気付いて、それをどう表すか考えなければあまり意味がありません。

そもそも、「ひまわり」という題材を選んだ時点で、こんな風に描かせようという教師の意図が強く反映されているのではないでしょうか。色々な黄色で表現させようと思っていた先生が、ひまわりの双葉を描いた子を認めてくれるでしょうか。まだ芽のでていない植木鉢に一生懸命に水をかけている自分たちを描かせてくれるでしょうか。先生が考えている表現の中でしか表現できないこと自体が、豊かな表現ではないということにならないでしょうか。

大切にしたい「子ども自らが考えること」

最初に述べたように、私は図工で最も大切なことは「表現力」でも「創造性」でもなく「考えること」だと思っています。「考える」ことを大切にしていれば、「表現力」も「創造性」も身に付いてくると思っていますし、「考える」ことなしにそれらの力は手に入りません。

たとえば、算数の問題を出題していきなり解き方や答えを教えたりするでしょうか。そんなことは普通しません。なぜなら自分で考えることが能力を伸ばすことだと分かっているからです。

しかし、図工になると状況が違っていて、いきなり描き方を教えたりします。背景を最初に塗らせたり、彩色に適した混色の組み合わせを指定したり、時には先のひまわりの例のように描くものも決めてしまったりということがよくあります。しかし、本当は、背景はいつ塗ろうか、どんな色を混ぜたら感じがでるんだろうかと考えることこそが必要なのではないでしょうか。

図工も国語や算数と同じ教科のひとつです。そして他教科で考える学習をしているように、図工も考えることなく授業は成り立たないはずです。そして、それは単にうまく絵がかけるとか手先が器用とかいうことではない、自分の生きる力に直接関わってくる大切な力でもあるからです。

自ら考える図工はどうすれば行えるか

「考えること」が大切だとしても、そんな図工はどうすれば行えるのでしょうか。

考えるためにはそれまでの経験が大きく関わってきます。たとえば、色を自由に塗るという課題があったとしましょう。この時、絵の具を使う時に筆しか使ったことがなければ、筆を使って好きな色を好きなタッチで色を塗ろうとするでしょう。

しかし、歯ブラシや刷毛、スポンジやローラーを使って絵の具で色を塗った経験があれば、自由に色を塗るという課題に対して、用具の選択肢が加わります。その事によって、表現の幅が広がると同時にどれが最適か、どれとどれを組み合わせるのがおもしろいのかなどいろいろなことを考えるようになります。

このように図工では経験が考える上でとても重要です。そのためにも低学年の内からいろいろな事を経験させていただきたいと思います。造形遊びは、その経験のためにとても役に立つでしょう。

そうした豊かな経験があって、本当の意味での豊かな表現が可能になってくると思います。そして、最初の「絵が下手なので図工はどうやって教えていいかわかりません」という発言に戻ってくるのですが、絵の描き方を教える訳ではないので、先生自身が絵が上手だろうが下手だろうがあまり関係ないことになります。図工を教える先生に必要なのは、絵を教えてくれる先生ではなく、いろいろな造形体験をさせてくれる先生だからです。

まとめておきましょう。

図工で大切なのは、子どもが考えること

いろいろな事を経験することが考える土台になる

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました