彫り進みの技法を使った木版画は図画工作の教科書に取り上げられていますが、どのように彫ればどのように刷れるのかが分かりにくく、彫刻刀を使った版画題材の中でもハードルの高いものとなっています。そこで、この彫り進み木版画を分かりやすく動画で解説しました。
彫り進み木版画って何?
木版画に「彫り進み」という技法があります。図画工作の教科書にも、作品例と共にその制作方法が掲載されています。彫り進みはざっくり説明すると「彫り」と「刷り」とを繰り返す版画です。通常の版画は、版木を彫刻刀で彫って版を作ったらそれにインキを付けて刷って終わりです。刷った後に、さらに版木を彫っていくことも無ければ、色を変えて重ねていくこともありません。しかし、彫り進み木版画は、彫っている途中で、刷っていく版画です。
例えば、同じ版を使って、その版に黄色のインクを付けて刷り取って、その刷り取った紙に、今度は緑色のインキを付けた版木を重ねたとしたらどうなるでしょう。黄色の時も、緑色の時も全く同じ版であったなら、2色は完全に重なるだけです。刷りを重ねても黄色は緑色に覆われて、最初に黄色で刷ったことの意味は無くなってしまいます。まぁ、実際には完全に重ならず、少しは黄色い部分が見えはするでしょうが。
では、刷り重ねる前に、版の形が変わっていたらどうなるでしょう。つまり、黄色に刷った後、もう少し彫刻刀で版木を彫って、その後、緑色のインキで刷り重ねたとしたら、どうなるかということです。そうです。1回目と2回目は完全に重なるのではなく、一部が重ならなくなりますね。こうすることで、重ねた時に、後から使った緑色だけではなく最初に使った黄色も刷りに現れるようになります。
彫り進み版画は、多色刷りを楽しむための、言い換えると、色を重ねて表現するための技法だと言えます。
彫り進み木版画の方法
彫り進みで版画を行う場合、彫りと色の関係を知る事が必要になります。彫った所にはインキが付かないので、1回目に彫った所は、紙の色の白色になります。これを黒インキで行うと白と黒の一般的な木版画ですね。彫り進みでは、色を重ねる為に、明るい色から刷っていきます。これは、暗い色のインキの上に明るい色のインキを重ねても本来の色が出ないからです。混色しないと市販されいない色もありますが、黄色、薄青、薄赤、薄緑などを1回目の刷りに使います。もし、1回目に黄色で刷り取ったら、2回目に彫る所が、黄色になります。
つまり、「彫ったところが、前の色になる」というのが、彫り進み木版画のポイントです。
高い?彫り進み木版画のハードル
ここまでで、何となく彫り進み木版画のイメージはつかめても、実際に自分が授業でやってみるとなるとハードルが高いと感じられる方が多いのではないでしょうか。なぜそう思うかというと、私の周りでそう言った声をよく聞きますし、第一、私自身がそうでしたから。教科書を見たり、経験のある人から話を聞いても、自分自身でやってみないと実際の所はわからない。多くのことがそうでしょうが、この彫り進み木版画は特にその傾向が強いようです。ただ、自分でやってみないとといってもその一歩が踏み出しにくいのではないでしょうか。
そんな方の一助となればと思い、彫り進み木版画の解説動画を作ってみました。動画の構成は、
1.彫り進み木版画の仕組み
イラストとアニメーションを使い、彫り進み木版画の彫りと刷りの関係を解説しています。
2.制作の様子
実際に版木を彫刻刀で彫って、ローラーでインキを付け、刷り紙に刷り取るまでを見て頂けます。「下絵」「1回目の刷りと彫り」「2回目の刷りと彫り」「3回目の刷りと彫り」というように、回を追うごとに、版と刷りがどのように変わっていくかが良く分かると思います。
3.補足
彫り進んで色を重ねていけることをよく理解している子ほど、きれいに色分けしたくなります。ただ、版画は広い面積を彫り取るとどうしても彫り取ったはずの所にもインキがついて、付くはずではなかった色が刷り紙に付いてしまうことになります。ですから、ここを黄色、ここを赤、ここを青というように色分けを考えすぎるとかえって上手くいきません。どちらかというと、彫りながら、この辺を黄色くしよう、この辺を赤くしょうと考えていく方が、この版画には向いているように思います。このように、知っていると参考になることを補足しています。
動画の内容
オープニング
彫り進みの仕組み
アニメーション
実際の制作の様子
彫り
2回目の刷り上がり
ローラーと練り板
各部分の彫りの効果
補足
「彫り進み版画」の実際の授業の様子と児童作品
実際の授業の様子と子ども達の作品例を下のページに掲載しています。合わせてご覧ください。
コメント