なぜ上手な絵はダメなのか

なぜ上手な絵はダメなのかタイトル 記事

 小学校の図工の絵画指導において、上手な絵がダメだと言われるのはなぜなのでしょうか。このページでは、資質能力の観点から上手な絵の問題点について解説しています。

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上手な絵がダメな理由

子どもが上手な絵を描くことは悪くない

 そもそも上手な絵とはどんな絵なのでしょうか。線が綺麗に描けているとか、色が丁寧に塗られているとかそういったことももちろんそうです。他には、写実的に描けているとか、ものの特徴をよくつかんでいるとかもそうでしょう。

 こういった絵を子ども達が描けるようになるのは素晴らしいことで、ダメだということは全くありません。図工のことを勉強されている先生の中には、子どもの絵を上手下手で評価しないのがいいと考え過ぎて、上手な絵の評価を低くされてしまうことがあります。上手下手で評価しないのはある意味正しいのですが、上手な絵を認めないということではないと思います。

 子どもが上手な絵を描くのはOKですが、先生が上手な絵を描かせようとするのはNGです。なぜなら、上手な絵を描かせようと、教師が描き方を教えてしまうからです。

なぜ描き方を教えてはいけないのか

 こんな絵をご覧になった方はいらっしゃいませんか。

なぜ上手な絵はダメなのか

 低学年とは思えないほど上手に描けています。ひまわりの種の部分はクレヨンで点を打つように描いています。しかも、色を変えながら描くことで、ひまわりの種の感じをうまく表現しています。

 ただし問題は、多少形は違うものの、みんながみんな同じ塗り方、同じような構図になっていることです。はたして、クラス全員が自分で考えて自分で表現した時、こんなことが起こるでしょうか。自分自身の表現でないとすると誰の表現でしょうか。そう先生の表現ですね。ここで何が行われたのかというと、先生の表現のコピーが行われたことになります。

上手な絵を描かせると資質能力は育つのか

 先生の言う通りに描いて、養われる資質能力とはなんでしょうか。クレヨンによる点描表現を行ったり、色をこまめに変化させたり、混色したりと技術的にはとても優れています。つまり技能を向上させることができるといえます。

 ただし、技能が身についたといっても、これは指導要領で身につけることになっている創造的な技能ではないことは押さえておく必要があります。創造的な技能は、身につけた技能をどこに使うかどのように使うかを考えて使ってこそ発揮されます。先生の言う通りに描いているだけは創造的という部分が育ちません。

 もうひとつ育たないのが、発想、構想の資質能力です。もしこの題材で、ひまわりを小さく描いて、ジョウロで水をかけている自分を描こうとしたら、先生は顔色を変えられるのではないでしょうか。そもそも、授業の始まる段階で、画用紙を横向きにしようとすることも許されないのではないでしょうか。この縛りの中で自由な発想とか子どもの感性とかを育てるのは難しいでしょう。

子ども自身の表現ができるように

上手に描かせようとしないことは指導しないことではない

 ところで、上手に描かせようとしないということは、指導しないということではありません。描き方を教えるのではなく、別の指導をしていくことになります。たとえば、発想、構想の資質能力を伸ばす指導や創造的な技能を伸ばす指導などです。

 ちなみに発想構想の資質能力を伸ばす指導方法については、別のベージで説明していますので、そちらもぜひご覧ください。→発想力を伸ばす5つの方法

 さて、もしかしたら、みんなが違った絵を描いているのにどのように技能を指導するのだろうという疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。確かに同じ物を同じ構図で描いていいたらここはこのように塗ってみましょうなどと指導しやすいですが、違った絵を描いている最中に技能指導をするのは大変難しいことです。

 それでは、技能の全体指導はどうするのか。それは、事前に行ってみましょう。例えば、ひまわりを描くのにクレヨンを使うとしたら、クレヨンの塗り方をいろいろ試しておくのはどうでしょう。色を重ねたり、点を打つようにしたり、ティッシュペーパーでこすったり、いろいろな技法があります。→いつものクレヨン・パスでこんな表現も

 このように技法をあらかじめ試しておくと、実際に絵を描いた時に、自分で表現を選べるようになります。ひまわりの種の部分を点で表す子もいれば、色を重ねて表現する子もいるでしょう。このように自分で塗り方を選ぶことで創造的な技能になります。

それではまとめです。

●上手な絵がダメな理由は、先生が描き方を教えてその通り描くのでは、創造的な技能や発想構想の能力が育たないから。

●しかし、描き方を教えないということは指導しないということではない。

●子ども達が自分のイメージを広げたり表現できたりするための別の指導が必要になる。

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